最近、「エピジェネティクス」という言葉を耳にすることが多くなってきました。「エピジェネティクス」とは簡単に言えば、さまざまな環境因子による「遺伝子の高度な発現調節」のことです。これはさまざまな過酷な地球上での環境条件に適応するために、生物が長い進化の過程で獲得してきた遺伝子の持っている重要な特性です。すなわち、単細胞生物から多細胞生物に進化した生物は、その個体の発生段階および成体となってからも、さまざまな高度な生命機能を維持・調節するために、いわば「内的エピジェネティクス」という特性を獲得してきました。まだ「内的エピジェネティクス」の全体像は十分には解明されていませんが、この本ではこれを「エピジェネティクス」と呼びます。
「エピジェネティクス」は、最近の遺伝学で重要なテーマの一つで、世界中で多くの研究者が、その分子機構の解明に取り組んでいます。この仕組みが完全に解明されれば、2008年ノーベル医学・生理学賞ノーベル医学・生理学賞を授与された山中伸弥先生(京都大学)のiPS細胞を、望みどおりの細胞に分化させ、それを用いて臓器を作る再生医療が容易に出来ることになります。しかし、再生医療は当初期待されたほどには進展していません。それはまだ「内的エピジェネティクス」の全貌がまだ十分に解明されていないからです。この生命システムは38億年という、長い歳月において、変動してきたさまざまな過酷な地球環境を乗り越えて生物が獲得してきた重要な特性なのです。
