• 2024年10月15日 9:33 AM

環境エピジェネティクス 研究所

Laboratory of Environmental Epigenetics

第7回「金子兜太」

 私はもう15年近くも俳句をやっているが、なかなか上達せず、いまだに「同人」にはなっていない。最初は湯河原の「春野」に入ったが、再度勤めを始めたので、小田原の天為句会に移り、もう10年も経ってしまった。天為句会の主宰は有馬朗人先生で、東大総長や文部大臣もやられた原子物理学者である。最近では、この会にもやや物足りなさを感じて、「現代俳句」にも入会した。

 好きな俳人はと言われると、まず金子兜太を挙げたい。秩父の風土の匂いのする骨太の兜太の句には、彼の経歴が色濃く写し出されている。経歴として、彼は東大を出て、日本銀行に入ったが、すぐに徴兵に採られ、海軍主計中尉として南洋のトラック島に派遣され、ここで戦争の地獄の苦しみを味わうことになる。
   水脈の果て炎天の墓標を置きて去る   兜太

 戦後、やっと帰還できたが、戦争体験は彼に大きな影響を与え、日銀に復職するものの、組合活動に精を出し、地方を転々と転勤させられた。兜太は日銀を定年まで勤め上げ、それから俳句に専念することになる。しかし、彼の権威への反骨精神はいささかも変わることがなかったようだ。兜太の人生には「反」の一字がふさわしい。彼はこの一語によって、彼独特の俳句の世界を作り上げている。
   銀行員等朝より発光す烏賊のごとく  兜太

兜太は長らく「現代俳句」のリーダー格で、日本の「現代俳句」をけん引してきた。彼の書いた「山頭火」を読むと、山頭火の自由律句に兜太が心酔したことがよく理解できた。俳句は5、7,5の定型ではなく、自分に合ったリズムで読むべきだと最近つくづく思っている。季語も必ずしも必要ないものと思う。
  分け入っても分け入っても青い山  山頭火

私は安倍首相の政治が大嫌いで、兜太の書いた「アベ政治を許さない」というコピーをずっと張っている。文案は澤地久枝による。「9条の会」の発起人の数少ない生き残りである。残念ながら安倍政権が倒れる前に、兜太はとうとう98歳で亡くなってしまった。安倍政権は、今回のコロナ禍で大いにゆらいではいるが、残念なことにまだ続いている。最後に兜太の辞世の九句の中の一句を挙げる。
  雪晴に一切が沈黙す  兜太        (05/15/20)