• 2024年5月15日 5:56 PM

環境エピジェネティクス 研究所

Laboratory of Environmental Epigenetics

2.遺伝子の構造

2・遺伝子の構造
ヒトの体はおよそ37兆個の細胞からできており、それぞれの細胞は、その機能に対応して200種以上の形態が異なった細胞に特殊化され、最適な形態をとりそれぞれの機能を果たすことになります。これらのさまざまの分化した細胞はすべて、たった1個の受精卵から発生してきたものです。皆さんの出発点は、母親からの卵と父親からの精子とが受精した、たった1細胞の受精卵に過ぎませんでした。この生物の持っている素晴らしい能力を、個体の「発生と細胞分化」と言います。これらの細胞の分化過程においても、一部の細胞を除いて、それぞれの細胞の持つ遺伝子のゲノムは変わってはいません。ゲノムとは個体が持っている情報の全体です。このことは、ヒトの約2万存在しているといわれている遺伝子の発現は、非常に精密に制御されて高度な調節機構が行われているのです。遺伝子というのは簡単に言えば、多種多様な「タンパク質」を作り出すための情報です。この驚異的な働きを司るために、生体に備わっているのが「内的エピジェネティクス」であり、この本ではこれから「エピジェネティクス」という言葉で説明してゆきます。またさまざまな外的環境によって変化するエピジェネィクスは「環境エピジェネティクス」と言うことにします。簡単にいえば「エピジェネティクス」とは「生体内および生体外の環境に応じて働くことが出来る精密な遺伝子スウィッチ」なのです。このスウィッチは遺伝子発現のON/OFFだけではなく、その合成量も調節できるのです。このすぐれた生物の持っている特性は、生物が進化の過程で特に多細胞生物に進化した時に獲得した、高等生物だけが持っている機能だと考えられています。

高等生物の細胞は核と細胞質から出来ており、細胞の核は周りを核膜で区切られており、細胞質とははっきりと分離されています。核はその中にDNAの長い鎖であるゲノムを蓄えており、これは「真核細胞」と呼ばれています。「真核細胞」からできているほとんどの生物は、その体が多くの種類の細胞からできている「多細胞生物」です。はっきりとした核を持たない細胞からできている生物は、「原核生物」と呼ばれ、それらのほとんどは単細胞から出来ている生物がです。しかし、それらの遺伝の仕組みは根本的には「真核生物」と同じです。このことからすべての地球上の存在する生物は、すべて単一の生物から進化したものだと考えられています。同様に遺伝情報も単一の物質から進化したものと結論できることを示唆しています。最近では、これらの物質は地球外から地球に来たものだという考え方も出てきました。

核には、それぞれのタンパク質を合成して、生物の遺伝現象を司る「遺伝子」があります。ある生物のDNAの長い鎖の全体は「ゲノム」ですが、「遺伝子」としてある特定のたんぱく質を合成するための情報を持っている部分はその数%に過ぎず、ゲノムのほとんどは、「遺伝子」として存在してるのではなく、最近までは「ジャンク(がらくた)遺伝子」と呼ばれ、それらは無用な存在だと考えられていました。しかし、最近ではこれらの「ジャンク遺伝子」であるDNAの部分は「遺伝子」を発現するために、重要な機能を持っていることが分かりつつあります。このことは、これからお話する「エピジェネティクス」と大いに関係があります。また、タンパク質の合成は核ではなく主に細胞質でリボソームと呼ばれるタンパク質の集合体の中で行われます。リボソームもさまざまな遺伝子から合成された、種々のタンパク質の集合体なのです。

遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という化学物質からできています。これは、アデニン、グアニン、シトシンおよびチミンという4つの化学構造の異なる「塩基」とリン酸とリボース糖がいう物質が長く鎖状につながった2重の鎖です。遺伝情報を担っているのは塩基の部分で、その並び方によってアミノ酸を規定し、ある特定の「タンパク質」を作り出します。タンパク質の合成においては、塩基は英語のアルファベットのような働きをしますが、これらにはたった4文字しかありません。また、この仕組みはRNAからできている一部のウィルス(RNAウィルス)以外は、「単細胞」生物を含めて。すべての生物に共通です。ヒトのDNAでは約9億個の塩基が、とてつもなく長く直線として並んでいます。細胞当たり2mにもなると言われています。DNAの遺伝情報は、並んでいる塩基に書かれており、3つの塩基の並び方で、1つのアミノ酸が決められます。これを3連符と言います。これには開始信号(メチオニン)や停止コドンも含まれます。これを「遺伝暗号」と言います。タンパク質とはさまざまなアミノ酸が長くペプチド結合してつながったもので、遺伝子は、それぞれが異なったタンパク質を作るための情報を持っていますが、ヒトでもおよそ2万程度しかありません。この数は他のマウスやショウジョウバエなどの生物種とほとんど変わりません。高等生物では「遺伝子」の情報を高度に活用しているようです。これらのことは、2002年までに世界を挙げて行われた、「ヒトゲノム解読計画」で分かったことです。皮肉にも、この計画で分かったことは、DNAの配列だけを解読してみても「遺伝」という現象の全体的な解明には役立たないということでした。ちなみに、世界をかく乱してきた新型コロナウィルスの遺伝子はRNAで、それらはヒトなどの細胞に侵入した後に、DNAに逆転写され、そのゲノムに挿入され、さまざまな疾患を引き起こすことにあります。