• 2024年12月13日 9:27 PM

環境エピジェネティクス 研究所

Laboratory of Environmental Epigenetics

第4回「新型コロナウィルス」

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いまコロナウィルス(COVID-19)が世界中を大きな混迷に陥れている。この結末を楽観することは許されない。しかし、我々はもう少し科学的・医学的に冷静に判断してそれに対する行動や言動を行うべきだと思っている。人類はこれまでに何回も世界的に過酷な感染症(パンデミック)を乗り越えてきた。それらから多くの教訓を得ているはずである。それは我々のゲノムにも残されている。

福岡伸一氏の「動的平衡(朝日新聞)」での考えは大変に面白い。氏はまずウィルスが生物か無生物かどうかを考え、ウィルスと細胞間の相互作用について考察している。ウィルスは生命が発生した初源から存在したのではなく、高等生物の遺伝子の一部が飛び出したものだと考えている。これによって生物の進化は垂直方法だけでなく、種を越えて水平移動に伝達される可能性が得られたと説いている。そしてウィルスは我々の生命に不可避な一部であると述べている。

近年のゲノム解析では、ヒトゲノムの40%以上はレトロウィルス由来であり、これは進化の過程で、生物がウィルスの侵襲と戦ってきた名残(軍拡戦争の結果)であると考えられている。生物の進化は個体や種のレベルだけではなく、遺伝子の戦いでもあったはずだ。さらに、これらの遺伝子の断片から胎盤が形成され、哺乳類が誕生し、現在繁栄しているという石野史敏氏の説は大変面白いと思う。

ヒトHome sapienceは一属一種であり、世界中のヒトはすべて同じ種である。これまでの歴史では、ヒトは無駄な戦争や過剰な経済競争によってその覇権を争ってきた。特にトランプ大統領の登場以来、どの国も自国中心主義が当然と考えられるようになってしまった。今回のウィルス禍は、こんな考え方が間違っていることを明確に示しており、これに警鐘を鳴らしているようにも思われる。

今回のコロナウィルス禍は、世界中が協調してこれに全力で当たることでしか、解決の方法がないことを教えている。COVID-19の特効薬、抗体、PCR技術などについて、すでに世界中で13,000件もの研究が開始されているという。つまらない金儲けのための競争よりも、人類はもっと一致協力して、COVID-19に立ち向かうべきであると思う。

コロナ禍に今年の桜咲きて散り   徹  (04/24/2020